「めざせ!カーボンニュートラル!」教材づくりの裏側 – データセット作成支援ツールの開発

2025-09-30

カーボンニュートラル

背景

K3Tunnelの教材「めざせ!カーボンニュートラル!」は、二酸化炭素排出量を計算するプログラミングを通して、カーボンニュートラルを学ぶ授業用のコンテンツです。子どもたちは具体的なアクション(例:太陽光発電、省エネ家電への切り替えなど)を選び、その効果を数値で確認することで、環境問題を身近に理解できる仕組みになっています。この記事では、その教材を支える「データセット作成支援ツール」の開発について紹介します。

手作業から最適化への挑戦

「めざせ!カーボンニュートラル!」では日本全体を対象とする日本全国版、データやマップを特定の地域用にカスタマイズした地域版を提供しています。当初、地域ごとに教材を展開する際には、多くの手作業が必要でした。CO₂削減アクションは約60種類あり、それぞれに「CO₂削減効果」「コスト」「がんばり度」といった指標が設定されています。地域特性に合わせたデータを反映しつつ、授業としてバランスよく楽しめるように調整する作業は膨大で、新しい地域版を作るたびに多大な労力がかかっていました。

「この地道な手作業を、アルゴリズムでうまく肩代わりさせられないだろうか?」という発想から、データセット作成支援ツールの開発が始まりました。

ツールの仕組み

開発に採用したのは「焼きなまし法」という最適化アルゴリズムです。これは金属を熱してゆっくり冷ます工程を模した手法で、一時的に不完全な解を許容しながら、より良い組み合わせを探索していきます。さらに開発の過程では、AIによるコーディング支援も取り入れました。アルゴリズムのコード生成やパラメータ調整の候補をAIに提案してもらい、人が取捨選択して磨き上げていきました。これにより試行錯誤のスピードが大きく上がり、短期間で実用的なツールに仕上げることができました。

ツールは教材開発用のExcelデータを読み込み、条件を満たす組み合わせを自動生成します。

たとえば:

  • 全アクションを実行すればCO₂排出量をゼロまで削減できる
  • スコアが段階的に上昇するよう調整されている
  • 特定のアクションだけで一気に高得点を取れないようになっている

さらに「バランス型」「環境優先型」「コスト重視型」といった観点を取り入れたシナリオも用意できるようになりました。

効果

K3Tunnel開発チームがこのツールを導入したことで、大きな効果がありました。これまで時間と心理的負担の大きかった調整作業が大幅に軽減され、短時間で新しい地域版を作成できるようになったのです。また、これまでは「どのくらいの点数まで到達できるか」が不明確でしたが、ツールを使うことで「この条件なら100点が出せる」と明確に示せるようになり、教材としての公平性やバランスも一段と高まりました。その結果、開発チームからは「これならより多くの地域に展開できる」と前向きな声が上がっています。

今後の展望

このツールによって、「めざせ!カーボンニュートラル!」教材はより幅広い地域や学校で活用しやすくなりました。今後は地域特性をさらに細かく反映できるよう改良を進め、教育的にも一層魅力的な教材へと発展させていく予定です。

カーボンニュートラルという大きな課題に向き合う子どもたちに、より良い学びを提供できるよう、技術面からのサポートを続けていきます。


生澤 真司
組合せ最適化の研究開発を担当。最適化コンペティションで磨いた技術を武器に、現実の難問を解きほぐし、世界をちょっと便利にしている。